作家と職業

2024/10/4

3. 作家と職業

 

宮嶋 ー
カメラマンと写真家、家具職人と木工家、設計士と建築家。そこらへんの線引きが時々どうでもいいって思う時があるんだよね。あまり分けないでよってね。
神野 ー
今ってもう少しあいまいで、私もそれでいい気がする。
三谷 ー
写真に関しては作家と職業っていうのが割とはっきりと分かれていると思います。写真家は何かを伝えたいっていうのを写真に寄せている。例えばただコップを撮っていたり、水に濡れた何かを撮っていたりしていて、撮っているものは具体的なものなんだけどその上にある抽象的な概念みたいなものがあって、それを一冊の写真集にして表現していたりする。それを見る人が読み解いていく感じ。僕はまだそういうところに至れていなくて、仕事として写真を撮っていて、お客様にとっていいもの、それが自分にとってもいいものを残していくことをずっとやっているけど、写真家さんみたいになっていきたいなとは思っています。何を伝えたいかっていうところからちゃんと考えて写真を撮らなければいけないなって。まだ見つかっていないんですけどね。
真弓 ー
宮嶋さんの家具は家具職人と作家が一体になっていると思うんですが。

宮嶋 ー
実はお店をオープンしてから5年が経った時に、次女が障害を持って生まれてきたんですよ。目が見えなかったりいろいろな病状を検査したり、入院したりという生活が5年続きました。その中で葛藤したり、落ち込んだり辛い気分になったりしていた中で、ある時「目が見えない人たちにとってデザインの美しさはどういう意味があるのか。」って思って作品展「感覚の記憶」を開いたんです。五感の中で視覚がないから他の感覚に親として可能性を探りたいって思いで。家具の肌触りだったり、木の香りや革のきしむ音だったりが感じられる家具。それ以前の家具はその優先順位が低かったんです。今つくっている家具は動物らしい、人間らしいっていうのか目で見て判断する前に「おいしそう」みたいな家具。そこでデザイナーと作家が入り乱れた感覚になる。その時に開き直れて自分の作家性を信じてみようと思った。今までは線を引いて線通りに正確に削っていたけど、ニュアンスに頼って、「これで多分いいと思う」、「このくらい」って手探りでつくることが増えてきた。ひょっとしたら失敗してしまうかもしれないけどがんばってみたいとクライアントに言えるようになった。でもまだ今も入り乱れていて、それがおもしろい。だからあまり職人と作家の線引きをしたくはないかな。
辻  ー
宮嶋さんは次女が生まれた瞬間からブログが変わったんです。それまでは厳しい師匠みたいなことをいっぱい書いていた。つくり方とか。

真弓 ー
生活が混じってきたとか?
宮嶋 ー
断言することってできないなって思ってきたんです。それまでは自分は弟子に効率優先、速度優先、きれいにつくることを求めていてすごい怖い人だった。それが「味わってつくりなさい、楽しみなさい。」って変わったんですよ。

 

神野 ー
それは年齢もあるし、キャリアもあって余裕ができてものの考え方がゆっくりになると思うんですよね。キャリアがついてくると個性がより出てくるようになって、特に家具とか写真はそこがおもしろい。建築はもう少し堅苦しくて、思想やコンセプトに縛られて、住宅は建築って呼ばないっていう風潮も昔からあったりして。かといって住宅作家になると急に職人色が強くなっちゃったりする。確かにできたものは格好いいけど、みんながそんな家を建てられる訳でなないし。自分が工務店の設計士を続けている理由は設計と工事が一貫しているから。設計事務所の場合、工事はどこかの工務店が担当する。もちろんお決まりの仲間のような関係の工務店もあるけれど、例えば何か不具合が出た時に責任の所在があいまいになってしまうことがあり、結果お客様が困ることになる。工務店の中の設計士であれば、自分が設計したものを最後まで責任を持つことができることが自分に合っている。その分デザインや納まりであきらめていることもたくさんあります。もちろんそうは言っても一生懸命デザインをしますけどね。自分が設計する際にはあまりつくり込まないようにしていて、寛容な器をつくりたいと思っています。例えばそこに納められる宮嶋さんの家具とか、いろいろなつくり手との共同作業によってお客様の家がより変化していくのが見れるのも楽しいから。

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