2. なにを見たくてつくっているか
- 宮嶋 ー
- 家具をつくっている瞬間はディテールとすごくこだわっているんだけ ど、納品してからの「時間」の方を見ているかな。10年先、20年先、誕生日会をどういう風にしてくれたんだろう、どんな風に家具が変化していったんだろう、どんなメンテナンスで次ぎ会えるんだろうって、そこを大事に思っている。そんな景色を見たいと思っていて、その手段として「木」は相性が良くて。「木」と切磋琢磨して会話して、それを家具にすることが得意。最近は彫刻に憧れている。彫刻って建築的な計算式でつくられていないじゃないですか。最終的にひっくり返したりとか。なんかそういうものに憧れているというか、だんだんそちらにいっているかな。
- 神野 ー
- 家をきっかけにいろいろな人に会えることが楽しくてこの仕事をしてい るかな。お客様が着ている服とかカバンとかも気になって、いいものならこっそり真似したりして、それも楽しい。いい家をつくるためにはお客様のことを趣味嗜好を含めてたくさん知りたいと思うし、そのためにもたくさん話したいと思う。設計中、建築中は家具とか庭とか室内のグリーンとかヒアリングして空間をつくるけど、完成してお客様の家に遊びに行くと自分がイメージしていたものを超える空間になっていることがたくさんあって、いつもビックリする。「おー、いい家じゃん。」って。その景色を見たくてつくっているかな。建築の中に家具までつくり込んだり、ひとつの家具しか似合わない空間になっている家もあるけど、自分は住み手の感性が混ざっていく空間が見たいからあまりつくり込まないようにしている。その代わりに家具だったら宮嶋さんのところに行っておいでとか、雑貨だったらどこどこにいっておいでってアドバイスできるようにしているかな。
- 宮嶋 ー
- 三谷さんに聞いてみたかったんだけど自分も写真が好きで、たった1枚の写真で勇気づけられることもあったんだけど、三谷さんが写真(カメラマン)に近づいていった嗅覚のようなものって何だったの?
- 三谷 ー
- カメラを持ち始めると、やっぱり好きなものしか撮らないじゃないですか。いろいろな写真家さんがよく「写真は残酷なものでもある」って言うんです。例えば隣を歩いている人が自分の好きな人だったら写真を撮ると思うんですけど、その写真の中には写真を撮るまでもない人も出てくる訳です。自分の中でその線引きがあって、撮られなかった人って何だろうって。写真によって選択されていて残酷だなって自分も思う。そうは言ってもやっぱり好きなものしか撮らないから自分の中でだんだん撮るものが狭まってきています。好きなものがわかってきたというか。そういう中でカメラをもっていいなって思うことは、「世界ってこんなに美しかったんだ。陽の光ってこんなにきれいだったんだ。」って。
- 宮嶋 ー
- (陽の光は)本当はきれいなんじゃないですか。邪魔しているものが多いだけで。
- 辻 ー
- その瞬間を撮りたいって衝動的になるんですね。
- 宮嶋 ー
- なんか音楽みたいじゃないですか。歌詞とかもそうで、なにかを見せてくれますよね。
- 三谷 ー
- そうなんですよね、カメラで撮りたいって思うものがきれいなものなんだなってどんどんわかるようになってきた。
- 辻 ー
- 建築も光の入り方が美しいと感じる瞬間ってありますよね。カメラを構えた時も感じますか。
- 三谷 ー
- もちろん、建築写真を撮り始めるようになっていろいろな建物を撮っていると、窓からの光とかが設計士によって考えられていることがわかるようになってきましたね。
- 宮嶋 ー
- トイストーリーの日本人デザイナーの「幸せのシーンは、その担当者のこもれびを入れる」って聞いたことがあります。家具をつくりながらデザインとは違うアプローチの美しさに気づくことがたくさんあって、そんな自然観を自分の味方につけてかぐをつくりたいというか、そういう部類に属したいと思っている。芝生のようなうれしい家具をつくりたい。
- 三谷 ー
- みんな写真を撮ればいいのにって思うんですけど、今はみんなスマホで撮ってしまう。スマホだと考えずに撮ることが多い。カメラのファインダーを覗くことで、好きなものを見つけるきっかけにはなるのかなって思います。
- 神野 ー
- 三谷さんが写真を撮る中で伝えたいことというか、写真を撮った時に「よし」っていう瞬間ってどんな時ですか。
- 三谷 ー
- 何を伝えたいかって言うとなかなか難しいんですけど、その時はいいものが撮れたから見てもらいたいっていう気持ちが強いです。僕はとにかく写真が好きなので例えば光がきれいなタイミングで撮れたとか構図が美しいものが撮れたとか、自分の中でバランスよく写真が撮れた時にいいなって感じるし、見てもらいたいって思う。