1.断熱方法の歴史
私たちが建築している愛知県周辺における住宅の冬の暖房方法について考えてみます。
昭和初期からある住宅の断熱材は、屋根と床の断熱材はありませんでした。壁は7㎝程度の土壁があるだけ。建具は木製ガラス引違い戸が多く、建具の下は隙間だらけのレールでした。当然家の中は寒かった。畳が断熱材の役割を果たし多少は温かいけど、それでも畳自体も冷たくなっていました。暖房方法は灯油ストーブとこたつ。

台所や食堂は板材でスリッパを履かないと耐えられないものでした。私の子供の頃の住まいはこのつくり方で、家の中で息が白かったことを覚えています。
その後1970年代のハウスメーカーによる工業化住宅の普及によって、壁には5㎝程度の大工さんが手で詰めるグラスウール、天井には同じものを敷き詰める工法が主流となりました。

その後厚みが7.5~10㎝と厚くなったり密度が高くなっていきましたが、壁や天井の断熱材がきれいに入っておらず、断熱欠損が原因で結露が発生し、構造躯体が腐ってしまうなどの事象が多発しました。この頃も床の断熱材はありませんでした。暖房方法は灯油ストーブとこたつに加えて、エアコンが使われるようになりました。それでも家の中で息は白いまま。

床下に断熱材が施工されるようになったのは旧省エネ基準ができた1980年に入ってからとは言われていますが、小さな工務店、大工さんまで広まっていたかというと懐疑的。私の感覚的には1990年頃に床下に断熱材を入れることが当たり前になったように思います。
2.家の寒さ
昭和の家が寒かった大きな理由は、床の断熱材がなかったこととアルミサッシが1枚ガラスであったことです。もちろん壁や屋根の断熱材の性能や厚さも関係ありますが、床と窓がほぼ無断熱状態であったと言ってもいいと思います。
部屋の中でいくら暖房をしても、床と窓から熱が逃げて行ってしまうため、暖房を切ったとたんにスーっと部屋が寒くなっていく。だから暖房をつけながら、厚着をして体を寒さから守るように過ごしてきました。
1990年代から床の断熱材が設置されるようになり、2000年前後にはサッシもペアガラスが当たり前になりました。もちろん昭和の家に比べれば保温性能はよくなり家も温かくなりました。
でも家はまだ寒い。
その理由は、足元の寒さだと思います。上半身は寒くないけど、ダイニングテーブルにじっと座っていると足が寒い。床に座ってテレビを見ているとヒヤッとするなど。

原因は部屋の暖房で温められた空気が上に溜まり、冷たい空気が下に下がってきてしまう、廊下や2階の廊下・階段の冷たい空気が温かい部屋に引っ張られてきて、床面を流れて溜まることです。サッシの性能が低くてアルミやガラスの冷気が床面に下りてくる場合もあります。また椅子に座っていると体温を逃がさないために末端の血管が収縮し血流が悪くなって足が冷たくなることも起因しているようです。
また家の断熱性能や気密性能が向上したことで、換気扇や給気孔、細かな隙間から空気を圧力で引っ張ってきてしまうことも原因のひとつとなってきました。スリッパや厚手の靴下を履けばいいそうですが、折角なら寒くない状態を実現すべきだと思います。
もちろん木製サッシや樹脂サッシ、アルゴンガス入りのペアガラス、トリプルガラス、熱交換型の第一種機械換気などで断熱性能や保温性能、気密性能を上げることで問題は解決可能です。
理想は少しの暖房で部屋全体に温度ムラがない状態です。
3.なぜ床暖房が人気なのか?
家の断熱性能を上げるためには、
・断熱材の性能や厚さを上げる
・サッシなどの開口部の性能を上げる
・機械換気などで冷たい外気を部屋の中に入れないようにする
この3つが大きな要素となります。でも当然その分コストアップになりやすい。
簡単に足元を温かくする方法、それが「床暖房」だと思います。

家の断熱性能が低い、床下に断熱材が入っていない家のリフォームなど、電気の力で温めることで簡単に解決できるということです。床下に断熱材がない場合は熱も逃げてしまうので床暖房の電気使用量は増加傾向となります。それでも足元は温かい。家の性能に関わるトータルコストを抑えつつ、寒くない家を実現できるから住み手にも建築業者にも人気なのだと思います。
ただ真冬は床暖房だけでは暖房としては足りないため、エアコンを補助暖房として使うことが多いです。床暖房と湿度調整機能付きの全館換気システムなどを組み合わせてエアコンを使わないハウスメーカーなどもあるようです。
4.快適な暖房方法は?
私は以前床暖房のある家でお酒を飲んだ時、床が熱すぎてお酒がグルグル回った体験があります。エアコンを節約するために床暖房の温度を上げすぎていたことが原因だったと思います。酒飲みの私には向かない暖房方法だなと感じたことを覚えています。
メーカーのカタログなどでは8畳の床暖房を1日8時間使用した場合、電気代が月5千円くらいだから経済的と書かれています。でもリビングとダイニング、キッチンの足元などを入れると多分16畳くらいになるので電気代は月1万円となります。それにエアコン代が加算されます。高齢者など1日家にいる方だと1日8時間以上使うでしょうから電気代はさらに増えることになります。
エアコンは一番電気代が安いけど、空気が乾燥するし、足元は全然暖かくない。このエアコンの空気の乾燥に、毎年日本中の人々が悩み、メディアで取り沙汰され、対策法やケア商品の販売などが毎日のようにテレビで紹介されるというルーティン。
電気ストーブはピンポイントでは温かいけど、全体は温かくならないし、電気代が高い。
オイルヒーターは大きくても12、13畳くらいしか温められないのと、電気代が高い。
ガスファンヒーターは温かく、蒸気も含まれるので室内の乾燥は抑えられます。でもガス代は結構高い。
石油ファンヒーターは工事費もいらず、温かい。でも灯油の買い出しと補充が大変。月の灯油代も結局1万円くらいになったりします。
灯油ストーブは石油ファンヒーターと同じ手間とコストがかかるのと、火災の恐れがあります。
冬の理想の室温は、家の中全体が春先の温度である22~23℃に保たれていることだと言われます。

それを実現しようとするとパネル輻射式ヒーターや全館空調システムとなってきます。特にパネルヒーターは空気の流れがないのでとても心地よいものです。でもどちらも設置費用が高額でなかなか採用されていません。
5.ランニングコスト、快適性などを踏まえて何が一番バランスがいいのか?
燃料代は結果的にどれも同じくらいかかります。
だから人体にとって快適であることがベスト。
春の暖房もしなくても家の中が快適な空間。つまり空気が心地よい温かさで、室内の温度ムラがなく、一番触れている床が気持ちいい温度である状態。
できるだけそこに近づけていくにはどうしたらいいか?
一番は、床が温かさを持つ材料を使うこと。無垢材のフローリングでオイル塗装など調湿可能な仕上げがされているものを使う。針葉樹の方が温かい温度を含んでくれます。ウレタン塗装などの被膜層をつくるものは絶対ダメです。畳もOKです。もちろん床下の断熱材もしっかりと保温性能のあるもの、遮熱性能のあるものを選定することが大切です。
基礎断熱も効果的ではあります。ただし素材や耐久性、床下のムレによる湿気やカビ対策もしっかりと計算して材料選定をしましょう。
ここで1つ御忠告。床の断熱材がない家のリフォームで、床材を3㎝の杉やパインの無垢のフローリングにすれば温かいと勧める建築業者があるようですが、それは大きな間違いです。床下に断熱がない限り床から熱は逃げ、床は冷やされ続けるので冷たいままです。私も過去に1度この失敗をしました。結果床に断熱材を入れ直して問題解消した経験がありますので。
床が春先のような温かさであれば、床暖房のような不自然な足元の温かさは解消されるはずです。
あとは家の断熱性を上げること。特に保温性能を上げることです。
私たちエコハウスでは「遮熱性能」と伝えているもので、断熱材そのものの「熱の通しにくさ」が優れたものを使うことです。
保温性能がよければ少しの暖房で室内の空気が温かくなり、温かさが持続してくれます。その温かさが床やそれ以外の仕上げ材に伝わり、「家自体が温かさを保ってくれる」という理屈です。もちろん、すきま風が室温を下げないように注意することは前提として。
この2つによって、暖房で家の温かさをキープするのではなく、家自体が温かさを維持しやすい構造となっていて、少ない暖房でその性能を発揮してくれるものとなれば、先に比較した各暖房のメリット・デメリットもあまり関係ないものになると思います。
家はできるだけ安くつくりたい。
電気代はできるだけ安くしたい。
冬は暖かく過ごしたい。
インフルエンザやコロナなど、冬の病気を予防して健康に暮らしたい。
住み手それぞれに考え方や価値観が異なり、これらのバランスによって日本の家は日々つくられています。
「家自体が温かさを保ってくれる」
と述べました。その性能は30年以上変わらないことがベストです。
そのためにどのような工法、材料でつくることがいいか?
そんな視点で家づくりを考えてみることも1つのヒントかもしれません。

