5.若者につないでいくもの
- 宮嶋 ー
- 若者に対して、自分が50歳を過ぎてつないでいくという感覚は何かありますね。
- 神野 ー
- 僕は自分が積み上げてきた図面の描き方であったり、自分が生み出した納まりとかは誰であっても教えてあげたくて。だからいろんな人と出会いたいと思うかな。
- 宮嶋 ー
- 和田くんは横浜出身で、横浜で独立したいというのが最初からあった。本当は辻さんが入った時に、弟子は取らないでおこうと思っていたんです。その理由は2つあって、「またゼロから教えなければいけない。」という思いと「作家的な自分を信じてみよう。」と考えていた時期だった。例えばそれまでは僕が直接的につくっていない家具もお客様に納品することもあるんだけど、これからは完全に自分がすべて触った家具だけにしよう、そうしていかないと失礼かなと思ったんだよね。またそうしていくことで別の世界が見えてくるんじゃないかなって思った時に、「じゃあ、一人でつくろう。」って思った。あとは家族のように思える人だったら一緒につくってもいいかなって。笑いながら「失敗しちゃったね。」って言えるような。そんな時に和田くんが来てくれて、また弟子を取りたいなって思わせてくれたんです。バイクの話をしたり、自分の若い頃と同じものを持っているように感じたので。辻さんは経験も積んでいろいろできるようになったからこそ、最近気づくことがあったんだよね?
- 辻 ー
- 私は職人になりたいという思いからスタートして、自分のオリジナリティを出したいとは考えていなかった。宮嶋さんからいろいろ教えてもらっていく中で、これを上回ることって自分にできるのかなって思ったことと、お客様は当然宮嶋さんにデザインしてもらいたくて来ていることに対して小さな葛藤のようなものが芽生えてきた。そんな中、デザイン提案の時に、第3案目として提案させてもらうようになった。最初は全然選ばれなかったけど、最近は選んでもらえることも増えてきて、それが楽しいし、自分のオリジナリティって何だろうって考え始めるようにもなれた。最近は家具をつくる上で「心躍ることが大切」って思っています。お客様との打ち合わせの中でそういう場面をよく見てきたので。これが私がやりたいことだなって思ってきて、職人としてただつくること以上のものづくりへの愛情がすごい湧いてきた。オーダーメイドの楽しさを気づき始めました。
- 宮嶋 ー
- わくわくすること。やっぱりつくっている人が楽しいって思うものはいいものだと思う。そうやってできたものは少々粗くてもいいものになることが多い。だから、「たのしくつくること」「愛されるものであること」この2つを工房の理念にしている。これは最初からあったものではなくて、だんだん気づいていったことです。
- 真弓 ー
- 和田さんはどうですか?
- 和田 ー
- 僕はまだ打ち合わせに参加とかはしてなくて、宮嶋さんや辻さんがデザインした図面をもらって、製作していることがメインとなっています。製作の段取りとか基本的なつくり方というのは、ほかの工房でも身につけられると思うんですけど、ホリーウッドバディで教わっていることはそれ以外の部分。木柄ひとつとってもなんか雰囲気がいいとか、手で触った感じがなんか気持ちいい。他の工房では学べないことがここには多いなって思っています。休憩中も家具を触っていたりしていて、そういうところを大切にしたいなと考えています。
- 宮嶋 ー
- 楽しいんだろうし、和田くんにあっている仕事なんだろうね。
- 神野 ー
- 自分は今も設計が好きで、その気持ちはずっと変わっていない。だから多少辛いことがあったとしてもそのためだったら大したことではない。最近の若い人を見ていると、合う合わないの見極めが早い気がします。もう少し我慢すればその先に見えてくるものがあるのにって思うことが多い。原田さんはすごい情熱があって、ポジティブだからすごく楽しみです。先で仕事の選択肢がいろいろ変わってもいいと思っている。だから今ここでは精一杯設計をしてほしいです。
- 三谷 ー
- 僕はフリーランスで1人なのでずっと不安ですね。でも最近、今のかたちで50歳になったときのことをよく考えますね。写真の業界もSNSの普及でポートレートを撮ることが増えて若い世代のカメラマンが増えたこともあるし、それによって価格競争も生まれたし、難しい業界になってきていると思います。トップで活躍している人は変わらず仕事はあるでしょうけど、そこに満たない人たちにとっては不安が多いですね。当然家族が増えれば収入も確保しなければいけないし。
- 宮嶋 ー
- 最近は本業プラス何かが大事ってよく聞きますね。写真プラス何かそれに関係するイベントだったり付加価値だったりをつけ加えることで本業の収入にプラスの収入が生まれてくるとか。
- 三谷 ー
- そういう点では最近環境住宅さんには映像を撮らせてもらっていて、それも自由にやらせてもらっているのでとてもありがたいですね。今の時代、写真と映像はセットですし。でもそれも埋もれていってしまわないようにしなければいけなくて、売れている写真家さんは作家性があり、作風がウケていて成功していて、自分もそうしなければいけないと考えはじめています。将来は製作会社みたいなものをつくりたいと昔から思っています。カメラマンは孤独なので。人のつながりが生まれていくような。
- 宮嶋 ー
- 業界仲間みたいな、未来開拓仲間??
- 三谷 ー
- 未来開拓仲間ほしいですね!
- 神野 ー
- 3時間が経ちました。たくさん話したね。今日はこれくらいですかね。
- 辻 ー
- 話を出しすぎちゃったー(笑)。
- 真弓 ー
- 面白い話が聞けました。
- 宮嶋 ー
- また次回かな。話したいこと、伝えたいことはまだまだたくさんあるんだけどね。僕らは先が見えてきてるじゃないですか。とはいえまだまだ働くんだけど、多分、神野さんが言っている「つなぐ」っていうのは僕らからの想いも伝えていくってなっちゃうんだろうね。楽しい未来があるんだよってことを微力ながらしたいですね。自分が死んだ後も面白い業界になっていてほしいなという想いもあるし、そういうことにつながっていくプロジェクトになるといいなと思います。
- 神野 ー
- 若い人たちのために自分たちがいろいろなものをつくっていったり表現していって、たくさんのヒントを将来の残せたらいいなと思います。あの時神野がこんなことやっていて上手くいってたなとか、こんなことしてたなとか、若い人たちが問題に向き合う時の勇気になるようなヒントになるように。